「内定辞退の電話をしたら、呼び出されて頭からコーヒー(またはカレー)をかけられた」 「辞退したら損害賠償を請求する内容証明郵便が届いた」

就活シーズンになると、SNSや掲示板でこのような「内定辞退の都市伝説」が拡散されます。 ただでさえ気まずい辞退連絡。こんな話を聞いてしまうと、「自分も報復されるのではないか」と怖くて電話ができなくなってしまいますよね。

結論から言えば、これらの話の99%は嘘(または極めて稀な例外)です。

この記事では、就活生を震え上がらせる「怖い噂」の真偽と、企業が実際に取れる法的措置の限界について解説します。


都市伝説1:「呼び出されてコーヒーをかけられる」

判定:【ほぼ嘘(昭和の遺物)】

「誠意を見せろと本社に呼び出され、個室に入った瞬間に熱いコーヒーを浴びせられた」という、あまりにも有名なエピソード。 これは、昭和から平成初期のバブル期など、コンプライアンスという言葉がなかった時代のドラマや噂話が元ネタになっていると言われています。

現代の企業でこれをやれば、以下の罪に問われる立派な犯罪です。

  • 暴行罪・傷害罪: コーヒーをかける行為。火傷すれば傷害です。
  • クリーニング代の賠償: 服が汚れます。
  • 企業の社会的死: SNSで拡散されれば、その企業は採用活動どころか存続の危機に陥ります。

まともな企業のリスク管理として、学生一人に腹を立てて犯罪を犯すメリットは皆無です。 「呼び出されても行かない」のが鉄則ですが、万が一対面で話したとしても、コーヒーが飛んでくることはまずありません。


都市伝説2:「損害賠償を請求される」

判定:【原則なし(0.1%の例外あり)】

「採用にかかった広告費や人件費を返せと言われた」 これも就活生を脅す常套句ですが、法的には**「支払う必要はない」**ケースがほとんどです。

企業は請求できない

日本の労働法では、労働者(内定者含む)の「退職の自由」が強く守られています。 採用活動にかかるコスト(説明会費用、面接官の給料など)は、企業が事業活動として負担すべき「先行投資」であり、学生に請求できる性質のものではありません。

過去の裁判例でも、内定辞退に対する損害賠償請求は、ほとんどが棄却(企業の負け)されています。

【例外】支払わなければならないケース

ただし、以下の特殊な状況では例外となる可能性があります。

  1. 高額な費用がかかる「海外研修」などに参加した後 企業が全額負担して留学や海外研修に行かせたのに、帰国直後に辞退したような場合。
  2. 特別な備品の発注 あなた専用のオーダーメイド制服や、特殊な高額PCなどを発注済みで、転用がきかない場合。

これらは「入社前研修」などの名目で個別の契約を結んでいる場合に限られます。普通の就活プロセスで損害賠償が発生することは、まずあり得ません。


都市伝説3:「業界のブラックリストに載る」

判定:【嘘(個人情報保護法違反)】

「〇〇業界の人事横の繋がりで、辞退者のリストが出回る」 「辞退したことが他社にバレて、内定取り消しになる」

これも学生の不安を煽るデマです。 企業が学生の個人情報(氏名、大学名、合否結果など)を、本人の同意なく他社と共有することは、「個人情報保護法」で厳しく禁じられています。

また、競合他社の人事同士がそこまで仲良く情報を交換し合うことも考えにくいです。 「業界は狭い」というのは事実ですが、それは「10年後に仕事相手として再会するかもよ」という意味であり、「辞退者リストが出回る」という意味ではありません。


都市伝説4:「大学の推薦枠が消滅する」

判定:【本当(要注意!)】

これだけは、都市伝説ではなくリアルなリスクです。 「自由応募」ではなく、大学の「学校推薦(教授推薦)」を使って内定をもらった場合、辞退はご法度です。

もし推薦で受かった内定を辞退すると、企業は「〇〇大学の学生は信用できない」と判断し、翌年以降、その大学(研究室)からの推薦求人を打ち切る可能性があります。 あなた一人の問題ではなく、後輩や大学全体の不利益になるため、教授やキャリアセンターから厳しく指導(激怒)されます。 推薦利用者の辞退だけは、独断で行わず、必ず教授に相談してください。


都市伝説5:「家や実家に押しかけてくる」

判定:【稀にある(ブラック企業の場合)】

大手企業や普通の優良企業ではあり得ませんが、ノルマの厳しい一部のブラック企業や、コンプライアンス意識の低い中小企業では、実際に起こり得ます。

「連絡がつかないから心配して来た」という建前で、アパートや実家に人事担当者が来ることがあります。 これを防ぐための対策は一つ。「着信拒否(バックレ)をしないこと」です。 「辞退します」と意思表示さえしっかり行えば、家に来る大義名分はなくなります。


まとめ:脅し文句は「オワハラ」の一種

「損害賠償」や「ブラックリスト」といった言葉をちらつかせて辞退を思いとどまらせようとする行為は、典型的な「オワハラ(就活終われハラスメント)」です。

  • コーヒーは飛んでこない。
  • 損害賠償は払わなくていい。
  • ブラックリストはない。

これらの噂は、不安な就活生が生み出した妄想か、引き止めたい大人の脅し文句に過ぎません。 法的な知識で武装していれば、何も怖がることはありません。 毅然とした態度で辞退を伝え、自分に合った企業への入社を果たしてください。

【免責事項】 本記事は一般的な就職活動の事例および法的解釈に基づいて解説しています。損害賠償に関しては、企業と個別に「金銭消費貸借契約(研修費の貸与など)」を結んでいる場合は返済義務が生じる可能性があります。また、暴力行為や脅迫を受けた場合は、直ちに警察や大学のキャリアセンター、労働局にご相談ください。

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